寒暖差激しい今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
ハロウィンも終わったというのに、今回のお題はセミでございます。
セミの抜け殻と長男の出会い
異例なほどに梅雨が長かった今年、我が家には夏の訪れを心待ちにしている3歳児がおりました。彼が楽しみにしているのは、夏の昆虫・セミ。
長男とセミの出会いは、一年前・2歳の夏に遡ります。うだるような暑さの毎日、散歩中に彼は見つけたのです。葉や枝とも違う。虫のようだけれど動かない。少し透き通るような茶色の物体。
「ママ。これ、なんだかなぁ〜?」
※当時の長男語でこれなぁに?の意。決して、阿藤快さんではありません。
これが長男とセミの抜け殻との出会いでした。
よく見ると顔が怖いのか、鎌のような肢が怖いのか、単純に得体の知れなさが怖いのか。決して自分では触れようとしないのに、散歩の度に見つけては持ち帰る日々が続きました。
ようやく自分の手で採れるようになったのは、秋の気配を感じるようになった頃。
既に最盛期を過ぎ、めっきり見かけなくなった抜け殻。「セミさんね、暑い時しかお外に来られないんだよ。また来年の夏に会おうね。」と長男に声を掛けました。その時から彼は、まだ遠い夏を心待ちにしていたのでした。
夏到来。セミの抜け殻を集めまくる幸せな日々
そして2020年。ブロック塀にしがみついているセミの抜け殻を、私が発見したと同時にセミ活がスタートします。
どちらかというと虫は苦手な私ですが、セミに関しては別。有り寄りの有り。
アスファルトとブロック塀ばかりの場所にしがみつく一匹の抜け殻。それは数時間前、この無機質な場所に白と薄緑の羽化したての美しいセミがいたということです。
ここへやって来るまで、それはそれは大変な道のりであったことでしょう。長い時を過ごした地中より、地上に向かってひとかきずつ懸命に歩んだこと。地上は危険がいっぱい。もしかしたら地中にいる方が長生きできるかもしれません。この小さな身体に、ありったけの勇気を詰め込んで。心打たれないでいられましょうか。夏の太陽のもと、力いっぱい鳴いて羽ばたいて欲しい。
思わず、ヨーカ堂の脇で胸が熱くなってしまいました。
感化されやすいなぁ~。
長男の帰宅を待ち、私たちは再び現地へと向かいます。長男は「ここにいたんだね」と嬉しそうにその場を確認をしていました。
夏休みに入ると同時に梅雨明けし、いよいよセミ活本番です。
どこへ行くにも生け垣をくまなくチェック。ひたすら集めて、どうやら1匹も廃棄したくない様子。それならばと、排水溝用の水切りネットにいれ、ベランダの日陰に吊るして保管することにしました。
セミ活に転機が訪れたのは、8月中旬のある日こと。ブルーベリー狩りに行った際、夫がとても小さく、泥まみれの抜け殻を発見したのです。ブルーベリーはすっかりないがしろになり、抜け殻をもっていそいそと帰宅。
成長不良のまま羽化したのかなぁ。
いや…そういう種類ってだけでしょ。
まさか。これまで考えたこともありませんでした。
セミに様々な種類があるのですから、幼虫・抜け殻だって見た目が違って当然です。ということは、これまで収集した抜け殻たちは何種類かのセミが混同しているかもしれません。
保管しておいてこれ幸いと、今季収集した抜け殻を図鑑をもとに種分けると、アブラゼミがほとんどでミンミンゼミが少し。そして今回見つけたのは、ニイニイゼミでした。
『みんな違ってみんな良い。』とでも言いたげな長男。同時に「セミの抜け殻にはいろんな種類がある」と理解した様子でした。
その後、みんな大好きカマキリ先生からの追い風を受け、セミ活は抜け殻だけでなくセミ本体も範囲に加わり、更に熱を帯びていくのでした。
セミ活を通して得たもの
セミ活を経たことで、多方面での成長も見ることができました。
折り紙
セミ好きが講じて、折り紙・セミをマスター。幼稚園で先生にセミを折って貰ったこときっかけに、折り紙への興味が一気に湧いたようです。
初めの頃は、持ち帰った折り紙をお手本に私が折っていたのですが、いつからか長男が率先して折るように。そして遂に、ひとりで初めから最後まで折れるようになってしまいました。
それからは、園でも自宅でも量産し続けています。本稿のアイキャッチ写真は、長男が折ったセミたちを使用しました。
3歳9ヶ月。初めて自分ひとりで、手順を暗記して折れるようになったセミ。
折り紙のセミを見ては、ついこの間まで赤ちゃんだと思っていたのに…としみじみしてしまいます。
図鑑
長男の中で、図鑑が特別な機能を持った本として認識されたのも、やはりセミ活を通してのことでした。
それまで彼にとって図鑑といえば『色んな生き物が見られる本』というだけの存在。掲載されている動植物を眺めては、その造形についておしゃべりするような、物語ではなく写真集のような本。
それが、ブルーベリー狩りでの一件以来、長男の中で図鑑の意味が変化したように感じるのです。偶然拾ったセミの抜け殻は、ただのセミではなく名前のあるセミだった。そして、その名前を教えてくれたのは図鑑と呼んでいた本。
生き物の照会を経て、図鑑は見て楽しいだけでなく、調べる・知ることができるということも発見したようでした。図鑑のことはセミのご本と呼んでいるのですが、先日も散歩中に飛来した巨大なテントウムシを帰宅するや調べて『カメノコテントウ』ということがわかるなど、図鑑は生活の中に以前よりも馴染んでいます。
ちなみにセミのご本、正式にはFIELD PAL 野外探検大図鑑という図鑑です。
実は私が幼少期に使っていたもので、息子たちに専用の図鑑を用意するまでのつなぎにと、実家から持ってきていたのでした。
残念なことに既に絶版となっているようですが、改めて良い図鑑だなぁ~と思います。
野外探検大図鑑に載っている生物は、だいたい生活圏で見つけられると思います。逆に言えば、ライオンや深海魚・熱帯の密林の虫などは掲載されていません。
子どもが自分の足で見つけられる範囲の生き物が、季節ごとの括りで掲載されています。
具体的には、セミは夏の章に載っていて、種類毎に特徴・分布・扱い方が書かれています。この図鑑の素敵なところとしてひとつ、同じ季節の生き物を芋づる式に見られる点です。
例えばセミを調べると、付近のページにクワガタムシや蝶、夏の草木・水中の生き物などが。
目的の生き物のページに、公園で見かけたお花が咲いていたりすると、公園にもう一度みにいこっか!となるんさ…。
セミのご本に載っていた虫を公園で見つけた、公園で見つけた虫がセミのご本に載っていた。どちらの方向でも図鑑と現実世界が紐づく瞬間が、長男にとって達成感や小さな成功の積み重ねになっているように感じます。
ところで『おたすけこびとシリーズ』、お好きでしょうか?
私が紹介するまでも無い有名作品ですが、プロフェッショナル集団・おたすけこびとが、重機を乗りこなしてどんな依頼も完遂するという人気シリーズ。
かわいらしいこびとさんたちが、仕事に関してはものすごくダイナミックでストイックというギャップがとても面白く、私も大好きな絵本です。
このシリーズのもう一つの主役が、コヨセジュンジさんの描く重機でしょう。細部まで妥協無く書き込まれた重機を、シンプルなこびとさんが揚々と乗りこなす。この対比こそが、仕事人としてのこびとさんを際立たせている、んだと思う。
よく見るとこの絵本の重機、本来は影になって見えない奥深い場所のネジ一本まで書き込まれているのです。穏やかなようで、熱を感じる絵本です。きっと肉筆というものは、時として写真よりもすべてを明るみに出すことができるのかもしれません。
野外探検大図鑑もまた、全ての生き物はイラストで掲載されています。スケッチという表現の方が的確かもしれません。あまり子どもに媚びない堅物なタッチです。
昆虫の節の一つひとつ、葉脈一筋まで人の手でくっきりと記された紙面。虫の翅に刻まれた翅脈が、ステンドグラスのように美しいものだなんて知りませんでした。
この所業を情熱以外のなんと言いましょうか。
この図鑑を手掛けた方たちは心から自然に親しみ、かけがえのない友として一緒に歩んできたのでしょう。大人同士でも、大切な友人を紹介する際は熱心になります。この図鑑も、読む人に自然という友の魅力を饒舌に語りかけてきます。
初版1993年。ずいぶんと時間が経っているので、載っている情報が変わっている点もあるはずです。しかしこの図鑑と日常を共にするようになってから、以前よりも自然・季節からの臨場感が増したことに気が付きました。発見・探究の対象が身近にある喜びを感じています。
本当に、絶版なのは大変に残念ですが、図書館などで見かけた際には是非手に取って欲しい一冊です。
※気になるニャッキ!的な虫ですが、危険生物として巻末の方に掲載されています。だしぬけににリアルニャッキさんが出てきたりはしませんが、昆虫が苦手な方はご注意ください。
長男のセミ活はこれからどこへ向かっていくのか
すっかり寒くなった最近、当然セミもセミの抜け殻も見かけなくなりました。長男は夏の終わりを感じたのか、散歩の最中に『セミさん、バイバイ。また来年だねー。』と挨拶をしていました。
最近はどんぐり拾いに精を出し、拾得物を図鑑で調べる日々。
どんぐりは実だけでなく、殻(帽子)・葉も一緒に持ち帰ると品種を特定しやすいよ。
セミへの熱は冷めたのかといえば、せっせと折り紙を折り、抜け殻を虫眼鏡で観察する姿は健在。その真剣な横顔は、『秋には秋のセミの愛で方がある』と言っているようです。
セミのページでぱかっと開くようになった図鑑と共に、来年はどんな夏になるのか。今度は私が夏を心待ちにしています。
傷んできた抜け殻を間引き、乾燥管理するママのお仕事はまだまだ続く…。